第65回日本神経病理学会総会学術研究会

ご挨拶

第65回日本神経病理学会総会学術研究会
会長 神田 隆

(脳神経筋センターよしみず病院 院長)

第65回日本神経病理学会総会学術研究会を2024年(令和6年)5月16日(木)から18日(土)までの3日間、海峡メッセ下関にて開催いたします。今回は“臨床神経学を支える神経病理学”という大会テーマを掲げました。日本医学会分科会の一つとして、日本の神経病理学の研究を黎明期から担い発展させてきた歴史と伝統のある本学術研究会の会長を拝命し、身に余る光栄と存じます。山口県で本学術研究会が開催されるのは、65年の歴史の中で初めてのことですが、中国地方はこれまでも多数の臨床神経学・神経病理学に携わる優れた人材を産み出してきた地域です。今回のテーマにあるように、神経病理学の裏打ちがあってこそ第一級の臨床神経学が成り立つ、という臨床の原点に立ち返った学術集会になることを祈念しております。

2020年1月以来、パンデミックとなって猛威を振るってきたCOVID-19の感染拡大の影響を受け、多くの国内外の学会がWeb開催を余儀なくされました。本学会の最も重要なミッションの一つである、顕微鏡を見ながらの対面の議論の場が失われてきたこと、日本の神経学の発展にとって大きな損失であったと私は認識しております。幸い、COVID-19の弱毒化とワクチン及び新薬の開発に伴って各種の制約が緩和され、第65回大会ではオンサイトのみの開催とさせていただくことができました。従来の、神経病理学会総会学術研究会の本来あるべき姿に立ち返ることができることに大きな喜びを感じております。また、COVID-19感染対策の一環として病理解剖が大きな制約を受け、ここ数年間脳の剖検数が激減していることが演題数に影響するのではないかと懸念しておりましたが、幸い、一般演題161題(口演52題、ポスター109題)と従来にない多数のご登録をいただき、共催セミナーを除く総演題数は212題と充実したプログラムを組むことができました。特別講演にはスイスのベルン大学から血液脳関門研究の第一人者であるBritta Engelhardt教授、我が国からは再生医学の第一人者である慶應義塾大学の岡野栄之教授と、世界の最先端を走るお二人をお迎えすることができました。お二人にはシンポジウム演者としても丁々発止の議論に参加していただきます。また、最終日には“神経病理の初歩の初歩”と題して、神経病理の全く馴染みのない若手からシニアの先生に至るまで、1日で神経病理の入り口をマスターしていただくプログラムも準備しました。最先端のサイエンスから超ビギナー向けの入門コースまで、息をつく暇もないプログラムを堪能していただければと祈念いたします。

近年の脳神経内科領域での治療学の発展は目覚ましいものがあり、次々と新薬が上市されています。人類の最大の負荷の一つというべきアルツハイマー病の克服も、決して夢物語ではなくなりました。これは、行政、製薬企業の尽力もさることながら、多方面にわたる神経科学の下支えがあってこそ達成されたものと思います。神経化学、神経免疫学、画像診断、神経遺伝学、いずれをとっても欠くべからざるものばかりです。しかし、脳、末梢神経、筋肉、それぞれの場所で今何がおこっているかを顕微鏡の許に明らかにする神経病理学ほど、臨床神経学にインパクトを与え、次世代の治療学の進歩に貢献できる学問はないと私は考えます。これからの神経学を支える若い先生方と、経験と学識を備えた重鎮の先生方が1台の顕微鏡を介してコミュニケーションを図る場を、歴史ある下関の地で、風薫る5月に構築できることに大きな喜びを感じております。

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