会長挨拶

第38回日本精神科診断学会
会長 太田 敏男
埼玉医科大学神経精神科・心療内科

太田 敏男(埼玉医科大学神経精神科・心療内科)

このたび、第38回学術集会を2018年10月18日(木)~19日(金)の2日間の日程で、ウェスタ川越にて開催致します。今回はテーマとして「さまざまな場面での精神科診断学」を掲げました。

これまで本学会では毎回、大会ごとに独自のテーマで精神科診断を掘り下げる議論をして来ました。精神科診断を冠した学会をこれだけ続けるということは、世界的に見ても稀有なことかも知れず、その開催・運営をお引き受けし、今後に引き継ぐことに対し、強い責任を感じております。

ところで、昨今、精神科的情報の一般社会への広がりは目を見張るものがあります。背景には自殺、不登校・欠勤、虐めなどの社会現象の増加、報道の姿勢の変化、人権意識の高まりなどがあることはもちろんですが、さらに、医療側の啓発活動や行政の施策も影響を与えているでしょう。

こうした広がりは、基本的に、歓迎すべきであり、増加する問題に対処する協力の輪は良い方向に進展しており、精神疾患に対する偏見も徐々に薄まりつつあると言えましょう。

しかし、こうした中で我々精神科医は、稀ではあると思いますが、精神疾患の診療について、他科医療関係者や当事者の御家族の方々との間で、微妙な温度差を感じることがあります。例えば、摂食障害患者について、「自分から食べないのだし、入院させて栄養をつけても退院すればどうせまた同じになる、もう入院は引き受けたくない」といった愚痴とも言える発言を医療関係者から聞いたことがあります。明らかに自閉スペクトラム症で対人関係に問題を来しているケースについて、家族の一部の人や学校関係者の中に「わがままなだけだ」「周りの人がきちんと話せばわかるのにはっきり言わないからわからないのだ」といった、医療とは異なるモデルに基づく信念を持つ人がいて、病気・障害を御理解いただくのに苦労する場合があります。

こういう現象を説明しようとするとき、我々精神科医の間では、しばしば精神疾患の特殊性が言及されます。まず、多くの疾患は病因が不明であり、そもそも「疾患」と呼ぶにふさわしいかどうかという議論があります。また、症状は基本的に精神現象、すなわち現象としては身体とは違う次元のことがらですので、そもそもが身体的基盤に基づく身体疾患と横並びに論ずるのには多かれ少なかれ無理がある、と言われます。それらと関連して、精神科分野の診断単位は疾患 disease ではなく syndrome あるいは disorder であるといった議論もなされます。

これらは大変重要な議論であり、精神科プロフェッショナルとして、掘り下げ、整理し、自覚もしなければなりません。

しかし、前述のような温度差に具体的に対峙しようとするとき、こうした精神科医内部の専門的な議論を持ち出すことには無理があるかもしれません。そもそも、外からみると、精神疾患は疾患ではない、という議論は理解しにくいでしょう。現に、 ICD-10 の正式名称は「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」であり、第5章の「精神及び行動の障害」も他科の診断単位と横並びで「疾病」として扱われております。

そこで、今回、診断を「機能」という、比較的わかりやすい切り口で議論してみてはどうかと考えました。診断には、治療選択、予後・転帰予測、病態生理や病因研究のための作業仮説、均質な患者の選択、など、さまざまな機能が要請されます。こうしたことは、他分野の診断とも共通ですので、他科医師には理解しやすいでしょう。また、医療関係者以外の人にも比較的理解されやすいかもしれません。

ただ、こうした機能は、一般臨床場面、薬物療法、精神(心理)療法、疫学研究、生物学的研究、など、場面場面に応じて要請される部分が違うと思われます。そこで、各場面ごとに、要請される機能を検討し、情報交換をし合えば、互いに理解が深まることが期待されます。

冒頭に掲げた「さまざまな場面での精神科診断学」というテーマにはそういう背景がございます。もちろん、これに関係したことに限らず、例年行われている一般演題や教育講演など、幅広く精神科診断についての発表や討論が展開されることを期待しております。

皆さまの御協力をお願い致しますとともに、多数の方に御参加いただければ幸甚に存じます。

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なお、学会が開催されます2018年10月18日(木)~19日(金)の翌日からの週末、10月20日(土)~21日(日)、川越では国指定重要無形民俗文化財である「川越祭り」が開催されます。これは、江戸「天下祭」を今に再現した山車行事で、絢爛豪華な山車が小江戸川越の蔵造りの町並みを曳行(えいこう)される様は見ものです。とくに夜の「曳っかわせ」は最高潮の盛り上がりを見せる最大の見せ場で、インターネットの動画でも紹介されています。もしもスケジュールが許すのであれば、この機会に、引き続き、ぜひとも川越を堪能していただければと存じます。

【川越祭りホームページ:http://kawagoematsuri.jp/index.html

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