田坂賞

須藤 博
須藤 博 先生
大船中央病院 内科

 私が故田坂佳千先生が主宰されていたTFCメーリングリストに入れていただいたのは2000年,ちょうど東海大学で総合内科の立ち上げのために,卒業以来初めて大学病院で働き始めてまもなくの頃でした。当時は細分化された専門内科ばかりの中にあって,総合診療的な考え方に対する理解はなく,周囲との軋轢に苦しんでいた時期でした。そんな時に,TFC-ML上で交わされる「志」高く実践にもとづいた議論と,それに対する的確で暖かい田坂先生のコメントには,いつもほっとさせられていました。TFCから本当に多くのことを学びました。直接お目にかかったことはなくMLでのコメントを読むだけでしたが,田坂先生はいつしか私の中ではメンターのような存在になっていました。何よりベッドサイドで身体所見をこまめに画像に記録するようになったのも,TFCを通じて田坂先生の影響があったと思います。

 初めて広島に講演でお招きただいたのは13年前,田坂先生が急逝された直後のことでした。広島駅に降り立ち中西重清先生に出迎えられて,そのまま田坂医院に向かいました。ご遺族の特別のお計らいで先生の御霊前にお花を手向け,先生が使っておられた診察室やいつもコメントを書いていたPCを見せていただいたのが昨日のことのように思い出されます。それ以来,お世話になっている中西先生を始めとして,TFCを通じて得た多くの先生方との繋がりは私の大きな財産になっています。

 今回Web開催になってしまいましたが,田坂先生ゆかりの広島で開催された学会で「田坂賞」をいただいたことは,自分にとって特別の想いがあります。「万年研修医」の気持ちを忘れず,自分が得た知恵を惜しみなく周囲に分け与えること,すなわち田坂先生がなさっていたことを,先生のレベルには及びませんが実践すべく,この賞に恥じないようにこれからも精進したいと思います。本当にありがとうございました。